重い作品でも、お芝居することがストレス発散になる

今回柴咲さんが演じた山咲里沙子は、3歳の娘・文香と夫・陽一郎(田辺誠一)と共に平穏に暮らす専業主婦。ある日突然、乳児虐待死事件の裁判員候補として選ばれます。もし柴咲さんが裁判官に選ばれたら、どうしますか。

すごく悩むと思います。このドラマで扱われる事件のように嫌悪感を持つシチュエーションで、感情のバイアスを取り払って真実を見極めることが法廷でできるのか…本当に重責ですし。多分その制度自体を、深く考えると思います。今すでにある制度ですけど、自分にそういう役が回ってきていないから、考えないで済んでいるだけですよね。 私のような仕事をしていると身分がバレてしまうので、有罪判決が出た時に逆恨みをされて…ということもあるから、実際に裁判員に選ばれる可能性は低いと思うんですけど。自分が裁く立場でなければ、裁判の傍聴を経験するのは良いなと思います。共演者の中にも、今回の役作りというわけではなく、傍聴を経験したことがあるという方は結構いらっしゃいましたね。

母親役ということで、周りのお母さんにお話を聞かれたと伺いましたが、役作りに生きているところはありますか?

実は、このドラマのためにリサーチをしたわけではないんですよね。一個人として、いろんなエッセンスがあった方が良いな、と思うから聞いただけなんです。常日頃からの人付き合いの中で、すでにお母さんになっているお友達に、ちょうどこの作品をやっている時に会ったりとかして。 その日常会話の中で、子育てやお姑さんとの関係など、家庭全般についてお話を聞く機会がありました。その中で何が役作りに生きたのかはわからないですけど、そういった情報を意識的に活用していた部分はあると思います。

重いテーマの作品ですが、撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

終始なごやかでしたね。赤ちゃんがいっぱい登場するというのと、えみかちゃん(里沙子の娘・文香役)もいますし。待ち時間には、えみかちゃんと踊ったり、お話したりしてました。5歳児くらいまでだと、ある種それぞれの宇宙を持っているなと思うんですよね。まだ人間界に100%足を踏み入れていないぞ、みたいな(笑)。その数パーセントを見るのが好きで。 子供に媚びを売るのは苦手なので、同じ目線でしか話はできないんですけど。「面白いな、まだ4、5年しか生きていないのに」と思いながら(笑)。そういうお話を聞いてるのが、好きでした。 作品自体は重いテーマだけれども、別にそれを掲げて、どんよりとしている必要もないので(笑)。撮影も順調でした。

とはいえ今回の台本は、読むだけで鬱々とした気持ちになってしまうくらい、里沙子が追い詰められていく様子にリアリティがありますよね。このようにストレスの多い役柄を演じている際に、ストレス発散の方法はありますか?

最近は、どんなに重いテーマの作品を演じていても、影響を受けて鬱々とした日々を過ごす、といったことはなくて。あんまり昔は振り返らないから、いつからそうなったのかは、わからないですけど(笑)。 特にこの作品へ入る前の時期はすごく忙しかったので、お芝居がストレス発散になっていた気がします。こういう内容ではあるけれども、別の形でそのストレスを相殺した、みたいな感覚なのかな。作品に入ってしまうと、朝現場へ行って、メイクしてお着替えして本番っていうサイクルができてくるので居心地良くて。

演じて表現することで発散する、ということもあったのでしょうか。

アウトプットする効果、というのはひとつありますね。読んでただじっとしていないといけないのは、ストレスかもしれないんですけど。泣くのとかと一緒で、自分の感情をただ溜めているとつらいけど、泣いてみたら意外とすっきりするってあるじゃないですか。それとちょっと似ているところは、あるかもしれないです。 また6話を通すと、希望を見せられるドラマになっているんじゃないかと思うので。それも大きいと思います。

撮影前の「忙しさ」の一要素として、“MES VACANCES”というアパレルブランドを立ち上げられたり、2018年には企業家としての活動も本格的になりましたよね。どういう経緯でその活動を始めようと思われたのでしょう。

会社を立ち上げたのは2016年の11月で、大河ドラマの撮影中だったんですけれども。まだ絶対的な業務があるというよりは、まず会社を立ち上げて、そこから基盤作りをしていこう、というふうに考えていて。実際に始動していったのは、大河の撮影が終わってからということになりますね。 基本的には、クリエイター主導型の組織というか、「モノ作りのチームがあってもいいんじゃないか?」という発想が始まりです。自分がどういうふうに立ち回れるか、というのはまだ未知数でしたけど。その中で、衣食住にまつわるモノ作りということをしていこう、というところで、レトルトフードの企画・販売と、アパレルの企画・販売ということをしています。

“環境負荷ゼロでナチュラル志向なモノづくり”がテーマなのは、柴咲さんがもともとそういうことを意識されていたからですか?

そうですね。また事業のテーマとして、生きている人の、特に日本の方たちの環境意識を変えたい、ということがあるので。2020年にはオリンピックが控えていて、その後には万博もあって…人を呼び込むチャンスがたくさんある中で、先進国なのにまだ浸透していない環境意識を感じる部分があるんですね。 そういった部分を変革すると、実際に住みやすい街になっていくでしょうし、環境だけに留まらずに、真の豊かさみたいなものを見つけられるのではないかなと思うので。そこを追求していけたらいいな、と。

そういった社会的意義のある活動として、以前ヘアドネーションにご自身の髪を寄付されていますよね。それはどんな心境で行われたのでしょう。

長い髪があって、もったいないから(笑)。そこについては、もともと下調べをして「やろう」と意気込んで髪の毛を切った、とかではないんです。たまたま髪を短く切りたいというタイミングで、どうやら子供たちのためにかつらを作っているという団体がいるよ、というところで寄付につながった、という。でも切った髪が役立つというのは意外でしたし、興味のある方が参加するのは良いことだと思います。

●プロフィール● シバサキコウ/1981年8月5日生まれ。東京都出身。映画『GO』『メゾン・ド・ヒミコ』、ドラマ『オレンジデイズ』『ガリレオ』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』他で女優として活躍。同時にRUI、KOH+などの名義でアーティストとしても人気を博し、2018年には海外配信向けにMuseK名義でグローバルデビュー。今年は2月に映画『ねことじいちゃん』が公開され、5月には「歌と芝居で魅せる3都市ツアー」として『EARTH THE KO』を公演。2020年に映画『燃えよ剣』が公開予定。 ■ 作品紹介枠 『連続ドラマW 坂の途中の家』 4月27日(土)22時~WOWOWプライムにて放送スタート 原作は角田光代の小説。3歳の娘・文香と夫・陽一郎(田辺誠一)の3人で平穏に暮らす里沙子は補充裁判員として虐待死事件の詳細を知る。育児や義父母からのプレッシャー、優しさの陰で自分を抑圧する夫の言動など、被告・安藤水穂(水野美紀)との共通点に気づく。自らも虐待を疑われ、追い詰められた里沙子は…!? 構成/堀内章加(本誌) 取材・文/江尻亜由子 撮影/塩谷哲平(t.cube) ヘアメイク/SAKURA(アルール) スタイリング/岡本純子(Afelia)